立退料の相場はいくら?入居者・テナントが確認すべき増額交渉のポイント

貸主、管理会社、不動産会社などから立退きを求められた際に、「立退料として」「補償金として」「〇万円を支払います」と提示されることがあります。

このとき、入居者・テナント側としては、「この金額は妥当なのか」「増額交渉はできるのか」「相場はいくらなのか」と悩むことが多いと思います。

結論からいうと、立退料に一律の相場はありません。居住用物件か事業用物件か、貸主側が立退きを求める理由、建物の状況、移転に必要な費用、営業への影響、退去までの期間などによって、検討すべき金額は大きく変わります。

この記事では、立退料を提示された入居者・テナントの方に向けて、立退料の考え方、確認すべき費用、増額交渉のポイントを弁護士の視点から解説します。

すでに立退料の提示を受けており、提示額が妥当かどうか確認したい方は、当事務所の立退き請求を受けた入居者・テナントの方向けのご案内もご確認ください。

立退料に一律の相場はありません

立退料については、「家賃の何か月分」という形で説明されることもあります。しかし、実際には、立退料は単純に賃料だけで決まるものではありません。

たとえば、同じ月額賃料の物件であっても、居住用のマンションと、店舗・事務所・倉庫などの事業用テナントでは、退去によって生じる負担が大きく異なります。

居住用物件であれば、引越費用、転居先の初期費用、通勤・通学・通院への影響などが問題になります。

一方、事業用テナントであれば、移転費用だけでなく、内装工事費、設備移設費、休業損害、顧客離れ、営業再開までの期間なども問題になります。

そのため、立退料の金額を検討する際には、単に「提示額が高いか低いか」ではなく、退去によって実際にどのような負担や損失が生じるのかを具体的に整理する必要があります。

立退料は正当事由を補う要素の一つです

普通建物賃貸借契約の場合、貸主側が更新拒絶や解約申入れをして建物の明渡しを求めるには、法律上、正当事由が問題になります。

借地借家法28条では、正当事由の判断にあたり、貸主・借主双方の建物使用の必要性、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、財産上の給付の申出などを考慮するものとされています。

ここでいう「財産上の給付の申出」が、いわゆる立退料の提示にあたります。

もっとも、立退料を支払えば必ず立退きが認められるというわけではありません。立退料は、あくまで正当事由を補う事情の一つであり、貸主側の必要性、借主側の必要性、建物の状況、これまでの経過などとあわせて総合的に判断されます。

老朽化・建替えを理由とする立退きでは、建物の状況や建替え計画だけでなく、立退料が正当事由を補完する事情としてどのように評価されるかも重要です。詳しくは、関連記事「老朽化・建替えを理由に立退きを求められたら退去しなければならない?正当事由と裁判例を弁護士が解説」をご確認ください。

再開発や土地の有効活用を理由とする立退きでは、再開発計画の具体性や借主側の営業上の不利益を踏まえて、立退料が正当事由を補完する事情として問題になります。詳しくは、関連記事「再開発・土地の有効活用を理由に立退きを求められた場合の正当事由と立退料」をご確認ください。

居住用物件で確認すべき費用

居住用物件で立退きを求められた場合、まず確認すべきなのは、転居に伴って実際に発生する費用です。

具体的には、次のような費用が問題になります。

  • 引越費用
  • 転居先の敷金・礼金・保証金
  • 仲介手数料
  • 保証会社利用料
  • 火災保険料
  • 鍵交換費用
  • 転居先の初月賃料・前家賃
  • 現住居と転居先との賃料差額

また、費用だけでなく、生活上の不利益も重要です。

たとえば、高齢の方、持病がある方、子どもの通学区域が問題になる方、職場への通勤に大きな影響が出る方などは、単純な引越費用だけでは負担を評価しきれない場合があります。

そのため、居住用物件の立退料を検討する際には、金銭的な費用だけでなく、生活環境の変化による負担も含めて整理することが重要です。

事業用テナントで確認すべき費用

店舗、事務所、倉庫などの事業用テナントでは、居住用物件以上に、立退きによる影響が大きくなることがあります。

事業用テナントで確認すべき主な項目は、次のとおりです。

  • 引越費用
  • 内装工事費
  • 看板・サイン工事費
  • 設備や什器の移設費用
  • 休業期間中の売上減少
  • 営業再開までの準備費用
  • 顧客離れによる営業上の影響
  • 従業員対応に関する負担
  • 原状回復費用との調整

特に、飲食店、美容室、クリニック、学習塾、物販店舗などでは、立地そのものが営業に大きく影響する場合があります。

そのため、単に「移転すればよい」という話ではなく、同程度の立地・面積・賃料の物件が見つかるのか、営業を継続できるのか、移転によって売上や顧客にどの程度影響が出るのかを検討する必要があります。

提示された立退料が妥当か確認するポイント

貸主側から立退料を提示された場合、まずはその金額がどのような根拠で提示されているのかを確認する必要があります。

確認すべきポイントは、主に次のとおりです。

  • 貸主側が立退きを求める理由
  • 建物の老朽化や建替え計画の具体性
  • 現在の契約内容
  • 更新時期や通知の時期
  • 提示された立退料の内訳
  • 引越費用や移転費用が含まれているか
  • 営業補償が考慮されているか
  • 原状回復費用や敷金・保証金の扱い
  • 明渡期限までの期間
  • 立退料の支払時期

特に、立退料の金額だけでなく、支払時期や明渡期限も重要です。

たとえば、明渡し後に立退料を支払う内容になっている場合、支払が確実に行われるのか、支払時期が遅すぎないか、合意書上どのように定めるかを慎重に確認する必要があります。

増額交渉をする際に準備すべき資料

立退料の増額交渉では、「もっと高くしてほしい」と伝えるだけでは十分ではありません。

なぜその金額が必要なのかを説明できるように、資料を整理しておくことが重要です。

たとえば、次のような資料が役立ちます。

  • 現在の賃貸借契約書
  • 更新契約書
  • 貸主側から届いた通知書
  • 貸主・管理会社とのメールや書面
  • 引越業者の見積書
  • 移転先候補物件の資料
  • 移転先の初期費用見積り
  • 内装工事や設備移設の見積書
  • 売上資料や決算書
  • 休業期間の見込み
  • 原状回復費用に関する資料

資料があることで、交渉の根拠を示しやすくなります。

特に事業用テナントでは、売上や営業への影響を客観的に説明できる資料が重要です。移転によってどの程度の費用がかかるのか、どの程度営業に支障が出るのかを整理したうえで交渉する必要があります。

立退料だけでなく合意条件全体を見ることが重要です

立退き交渉では、立退料の金額だけに目が向きがちです。

しかし、実際には、金額以外の条件も非常に重要です。

たとえば、次のような条件です。

  • 明渡期限
  • 立退料の支払時期
  • 敷金・保証金の返還
  • 原状回復義務の免除または範囲
  • 残置物の扱い
  • 移転先が見つからない場合の対応
  • 合意後にトラブルが生じた場合の処理
  • 清算条項の内容

たとえば、立退料の金額が増額されたとしても、原状回復費用を高額に請求される内容になっていれば、実際に手元に残る金額は大きく減ってしまいます。

また、明渡期限が短すぎる場合、十分な移転先を探せず、結果的に不利な条件で移転せざるを得なくなる可能性もあります。

そのため、立退き交渉では、立退料の金額だけでなく、合意条件全体を見て判断することが重要です。

合意書に署名する前に確認すべきこと

立退料や退去条件について話がまとまると、貸主側から立退き合意書や明渡合意書への署名を求められることがあります。

この段階では、合意書の内容を慎重に確認する必要があります。

特に、次の点は重要です。

  • 立退料の金額が明確に記載されているか
  • 支払期限が明確に記載されているか
  • 支払方法が明確に記載されているか
  • 明渡期限が現実的か
  • 原状回復義務の範囲が明確か
  • 敷金・保証金の返還について記載されているか
  • 残置物の扱いが明確か
  • 不利な清算条項になっていないか

一度合意書に署名・押印してしまうと、後から条件を変更することは容易ではありません。

そのため、提示された立退料や合意書の内容に少しでも不安がある場合には、署名する前に専門家へ相談することをおすすめします。

弁護士に相談するメリット

立退料の交渉では、貸主側の事情、借主側の事情、契約内容、移転費用、営業上の影響、合意書の内容など、複数の要素を整理する必要があります。

弁護士に相談することで、提示された立退料が事案に照らして妥当か、増額交渉の余地があるか、どのような資料を準備すべきかを検討しやすくなります。

また、弁護士が代理人として対応することで、貸主や管理会社との直接交渉を避けながら、条件面を整理して交渉を進めることができます。

立退きを求められた場合の基本的な確認事項については、関連記事「立退きを求められたら必ず退去しなければならない?入居者・テナントが確認すべきポイント」でも解説しています。

よくある質問

立退料の相場は家賃の何か月分ですか。

立退料に一律の相場はありません。家賃の何か月分という考え方が参考にされることはありますが、居住用か事業用か、貸主側の事情、借主側の事情、移転費用、営業上の影響、退去時期などによって検討すべき金額は異なります。

提示された立退料を増額交渉できますか。

事案によります。提示額が移転費用や営業上の損失を十分に考慮していない場合、退去時期が短すぎる場合、原状回復費用や敷金返還との関係が不明確な場合などには、条件面を含めて交渉の余地があることがあります。

立退料が支払われるなら、合意書にすぐ署名してもよいですか。

すぐに署名するのは避けた方がよいです。合意書では、立退料の金額だけでなく、支払時期、明渡期限、原状回復、敷金・保証金、残置物、清算条項なども確認する必要があります。

店舗や事務所の場合、営業補償も交渉できますか。

店舗や事務所などの事業用テナントでは、移転費用だけでなく、休業期間中の売上減少、内装工事費、設備移設費、移転告知費用などが問題になることがあります。営業補償の可否や範囲は、業種、営業状況、資料の有無などによって異なります。

まとめ

立退料に一律の相場はありません。

立退料の金額を検討する際には、貸主側が立退きを求める理由、借主側が建物を使用し続ける必要性、建物の状況、移転費用、営業上の影響、退去時期、原状回復、敷金・保証金の扱いなどを総合的に確認する必要があります。

特に、店舗、事務所、倉庫などの事業用テナントでは、移転によって営業に大きな影響が出ることがあるため、資料を整理したうえで慎重に交渉することが重要です。

当事務所では、立退き請求を受けた入居者・テナント側の立退き交渉について、原則として完全成功報酬制で対応しています。詳しくは、入居者・テナント側の立退き交渉についてのご案内をご確認ください。